戦時中、大気の偏西風に乗せて敵を攻撃する“風船爆弾”というものがありました。今となっては少々馬鹿げていますが、当時は実際に用いられていた兵器のひとつです。そのとき、糊状になったこんにゃくを使って風船の強度を高めたのが、創業者の祖父でした。昭和初期にしては、革新的なアイデアの持ち主だったと思います。
長野から上京し、30歳あまりで独立を遂げ、頑固で畏れ多い存在だった祖父。数ある孫のなかから、私だけにおもちゃを買ってくれたのを覚えています。2003年に代表職になり、2代目の父の跡を継いだのは自然な流れだったのかもしれません。大量に生産し、広範囲に販売する。先代からのやり方に何の疑いもありませんでした。
あるとき、近所の大きな工場が売却され、跡地に大型マンションができました。朝晩、幼稚園のバスが5台も来て、子どもたちの送り迎えをしています。そんな姿を見て、『あの親子の食卓に、こんにゃくは並んでいるだろうか』という疑問がわきました。こんにゃくがどんなに体に良くても、口にしなければ話になりません。
そこで、若い人にも食べてもらえるよう、こんにゃくに大豆を加えた“蒟豆(こんず)”を開発しました。従来のこんにゃくの食べ方より幅が広がり、ドーナツなどのお菓子にすることもできます。『お客様に本当に喜んでもらえるものをつくりたい』そう願うからこそ、脈々と伝統を継続しつつも、時代に合ったものを提供しています。
食品の売り上げというのは徐々に下降するため、気づかぬうちに窮地に追い込まれてしまうことがあります。これまでしてきたことをそのまま続けても、現状維持にはなりません。時代も人も、絶え間なく変化しています。時局を読み、新たな挑戦をして、今までにないこんにゃくをつくり続ける使命があります。
私たちにとって、お客様というのは“敵”だと考えています。味方は、リラックスできる関係。敵であれば相手について徹底的に調べ、何をしようとしているのか次の一手を予測します。こういった意味で、お客様は手強い敵です。相手の欲するものを発信し、驚きや喜びなどお客様の心を動かすこと。これが本当の商売ではないでしょうか。
受け身で待っていても何もはじまりません。こちらからアクションを起こさなくては意味がないのです。このため、社員一人ひとりの役割が重要です。なぜこの作業をしているのか。どうして仕事をしているのか。単に浮き足立って新しいことばかりに目を向けるのではなく、根本的なところから考えることを基調にしています。
現在、20名ほどの社員がいますが、社員の数だけ個性と力があります。それぞれが最高のパフォーマンスができるよう、社外と社内を大きな視点で捉え、個々の潜在能力を引き出しています。こちらが本気でなければ、お客様を喜ばすことなどできません。プロフェッショナルとしての真髄を失うことなく、これからもさらなる進化創造を遂げていきたいです。
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